簿記3級を勉強していて、最初に「ちょっと何言ってるかわからない」となった論点を挙げるなら、私は迷わず貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)を選ぶ。
だって、おかしくないか。まだ誰も貸し倒れていないのに、決算で仕訳を切れという。起きてもいないことを帳簿に書く——簿記は事実を記録するものだと思っていた私は、ここで完全に置いていかれた。
でも、この気持ち悪さの正体さえわかれば、貸倒引当金は急に素直なやつになる。今日は図解3枚とオリジナル4問で、設定から実際の貸倒れ、そしてひっかけの定番まで通しで潰していく。
正体は「傘の備え」。雨はまだ降っていない
売掛金というのは、要するに「あとで払ってね」のツケだ。そして商売をしていると、残念ながら一定の割合で、回収できないツケが出る。相手の会社が倒産したりするからだ。これが貸倒れ。
ここで決算の立場になって考えてほしい。期末に売掛金が500,000円ある。経験上、だいたい2%くらいは戻ってこない。それを知っていながら「売掛金500,000円、全額ピカピカの資産です」と決算書に書くのは——正直じゃない。
だから簿記はこうする。「このうち回収できなさそうな分を、先に見積もって備えておく」。雨はまだ降っていないが、降りそうだから傘を用意しておく。この傘が貸倒引当金だ。起きてもいないことを書くのではなく、“起きそうなこと”を正直に織り込む仕訳だった、というわけだ。
【問1】決算につき、貸倒引当金を設定する
期末の売掛金残高は500,000円。貸倒実績率2%として貸倒引当金を設定する(残高はゼロとする)。仕訳は?
見積額は 500,000円 × 2% = 10,000円。この備えを作る費用が「貸倒引当金繰入」、備えの本体が「貸倒引当金」だ。
(借)貸倒引当金繰入 10,000 /(貸)貸倒引当金 10,000
借方の繰入は費用。貸方の貸倒引当金は、売掛金の価値を内側から打ち消す“値引きメモ”のような勘定だ(減価償却累計額と同じ発想。あちらは備品のメモ、こちらは売掛金のメモ)。
【問2】翌年の決算——差額補充法
翌期末。売掛金残高は600,000円、貸倒実績率は2%。ただし、貸倒引当金の残高が4,000円残っている。差額補充法による仕訳は?
まず今年必要な備えを計算する。600,000円 × 2% = 12,000円。でも、傘はすでに4,000円分ある。だったら、足りない分だけ買い足せばいい。
12,000 − 4,000 = 8,000円。
(借)貸倒引当金繰入 8,000 /(貸)貸倒引当金 8,000
これが差額補充法。「毎年ゼロから作り直す」のではなく「目標額との差額だけ補充する」。ちなみに逆パターンもあって、もし残高が見積額より多かったら、多すぎる分を「貸倒引当金戻入」(収益)で減らす。考え方は同じで、目標額に“合わせにいく”だけだ。

白猫:「目標額を出す→手持ちと比べる→差額だけ動かす」。この3ステップを声に出して言えたら、差額補充法はもう取れたようなものだよ。
【問3】ついに雨が降った——実際の貸倒れ
前期から繰り越した売掛金7,000円が、得意先の倒産により貸し倒れた。貸倒引当金の残高は12,000円ある。仕訳は?
ここで傘の出番だ。この日のために備えてきた貸倒引当金を取り崩して、消える売掛金にぶつける。
(借)貸倒引当金 7,000 /(貸)売掛金 7,000
注目してほしいのは、費用が出てこないこと。費用はすでに、備えを作った年の「繰入」で計上済みだ。実際に雨が降った日には、傘をさすだけ。新しく傘を買う(=費用を出す)必要はない。
【問4】傘が足りなかったら?
前期から繰り越した売掛金15,000円が貸し倒れた。貸倒引当金の残高は12,000円しかない。仕訳は?
備えの12,000円はぜんぶ使う。それでも3,000円足りない。足りない分は、あきらめて当期の費用にするしかない。これが「貸倒損失」だ。
(借)貸倒引当金 12,000 貸倒損失 3,000 /(貸)売掛金 15,000
まず引当金から、はみ出た分だけ貸倒損失。順番さえ守れば、金額がどう変わっても同じ型で書ける。
ひっかけの定番:「当期に発生した売掛金」が貸し倒れたら
最後に、3級の試験が大好きなひっかけを置いておく。当期に発生した売掛金が、当期中に貸し倒れた場合——貸倒引当金は使えるか?
答えは、使えない。思い出してほしい。いまある引当金は、前期末の売掛金に対して見積もった備えだ。当期に生まれたばかりの売掛金のことは、誰も見積もっていない。備えていないものに傘は出せない。
だから当期発生分の貸倒れは、引当金残高がいくらあろうと全額「貸倒損失」になる。問題文の「前期から繰り越した」「当期に売り上げた」という一言が、仕訳を分ける分岐スイッチだ。日付の言葉に丸をつける癖——減価償却のときと同じやつが、ここでも効く。

黒猫:迷ったら3つだけ確認しろ。「目標額はいくらか」「手持ちはいくらか」「その売掛金はいつのものか」。貸倒引当金の問題は、全部この3問に分解できる。
まとめ:傘の一生
貸倒引当金の一生を並べると、こうなる。
- 設定:回収できなさそうな分を見積もり、繰入(費用)で備えを作る(問1)
- 翌年以降:目標額と手持ちを比べ、差額だけ補充 or 戻入(問2)
- 貸倒れ発生:前期以前の分なら引当金を取り崩す。費用はもう出さない(問3)
- 備え不足:はみ出た分だけ貸倒損失(問4)/当期発生分は全額貸倒損失(ひっかけ)
「まだ起きてないことに仕訳?」と置いていかれた昔の私に言いたい。あれは未来の話を書いていたんじゃなくて、いまの売掛金の正直な値段を書いていたのだ。そう捉え直した日から、この論点は得点源になった。
仕上げはいつものとおり、ページを閉じて4問をもう一度。決算問題(第3問)でも必ず顔を出す論点なので、ここで型を固めておくと配点35点の戦いがぐっと楽になる。
貸倒引当金は“傘の備え”。目標額・手持ち・いつの売掛金か——確認するのは3つだけ。