白状すると、私は減価償却を最初、「呪文」として覚えた。(取得原価−残存価額)÷耐用年数。はい暗記、終わり。
その結果どうなったか。期中に買った備品の月割り計算で間違え、決算問題で間違え、売却の仕訳で大崩壊した。公式は覚えていたのに、だ。
あとから気づいた。減価償却は公式の問題じゃなくて、「なぜそんなことをするのか」が腹に落ちているかどうかの問題だった。芯はたった一つ。高い買い物を、使う年数で分割払いにして費用にする。今日はこの一本で、定額法から売却まで4問を通しで潰していく。
そもそも、なぜ買った年に全額費用にしないのか
たとえば、会社が600,000円のパソコン一式(備品)を買ったとする。素直に考えれば「600,000円の費用」と書きたくなる。でも簿記の世界では、そうしない。
理由はシンプルで、その備品は今年だけでなく、来年も再来年も使うからだ。5年使うものの代金を初年度に全部費用にすると、初年度だけ大赤字で、残りの4年はタダで使っているような、実態とズレた決算書になってしまう。
だから、買った金額をいったん「備品」という資産として持っておき、使う年数(耐用年数)に分けて、少しずつ費用に変えていく。この“少しずつ費用化”が減価償却だ。スマホの48回払いをイメージしてもいい。払い方を分割にするように、費用の計上を分割する。
【問1】決算につき、備品の減価償却を行う
備品(取得原価600,000円、残存価額ゼロ、耐用年数5年)について、定額法で減価償却を行う。記帳は間接法による。仕訳は?
定額法は“毎年同じ額ずつ”の分割払い。計算は 600,000円 ÷ 5年 = 120,000円。これが1年分の費用だ。
(借)減価償却費 120,000 /(貸)備品減価償却累計額 120,000
ここで3級の大事な約束が「間接法」。備品そのものを直接減らさず、「減価償却累計額」という“値引きメモ”を別に積んでいく。帳簿上、備品は600,000円のまま残り、累計額が「もうこれだけ価値を費用化しましたよ」と教えてくれる。備品の今の価値(帳簿価額)は、600,000 − 累計額、でいつでも計算できる。
【問2】期中に買ったら“月割り”——ここが最初のワナ
10月1日に備品600,000円(残存価額ゼロ、耐用年数5年)を取得した。決算日は3月31日。今期の減価償却の仕訳は?
公式だけ覚えていた昔の私は、ここで堂々と120,000円と書いた。違う。10月から3月まで、今期はまだ6か月しか使っていない。1年分まるごと費用にしたら、使っていない期間まで分割払いしたことになる。
年額120,000円 × 6か月/12か月 = 60,000円。
(借)減価償却費 60,000 /(貸)備品減価償却累計額 60,000
「期中取得は月割り」。理屈は“使った期間のぶんだけ費用にする”、それだけだ。試験では取得日が問題文にしれっと書いてあるので、固定資産の問題を見たら、まず日付に丸をつける癖をつけてほしい。

白猫:「いつからいつまで使った?」って自分に聞くだけで、月割りのミスはほとんど消えるよ。日付に丸、忘れずにね。
【問3】使い終わりが近づいた備品を売ったら?
取得原価600,000円・減価償却累計額240,000円の備品を、期首に300,000円で売却し、代金は現金で受け取った。仕訳は?
売却はパニックになりやすいが、手順は機械的でいい。①持っているものを全部消す、②もらったものを書く、③差額が損か益か。
まず、この備品の帳簿価額は 600,000 − 240,000 = 360,000円。それを300,000円で売ったのだから、60,000円損したことになる。
(借)現金 300,000 減価償却累計額 240,000 固定資産売却損 60,000 /(貸)備品 600,000
ポイントは、備品600,000円を消すと同時に、相棒だった累計額240,000円も一緒に消すこと。値引きメモだけ帳簿に残しておく意味はないからだ。「本体を消すときは、メモも道連れ」。これを忘れると貸借が合わなくなるので、すぐ気づける。
【問4】逆に、高く売れたら?
同じ備品(取得原価600,000円・累計額240,000円・帳簿価額360,000円)が、期首に400,000円で売れた。代金は現金。仕訳は?
帳簿価額360,000円のものが400,000円で売れた。40,000円の得=固定資産売却益(収益)だ。益は貸方に置く。
(借)現金 400,000 減価償却累計額 240,000 /(貸)備品 600,000 固定資産売却益 40,000
問3と見比べてほしい。やっていることは同じで、差額の置き場所が借方(損)か貸方(益)かだけ。帳簿価額より安く売れば損、高く売れば益。当たり前の感覚が、そのまま仕訳になる。

黒猫:売却の手順は「本体とメモを消す→もらった物を書く→差額が損か益か」。この3手順を崩すな。考える順番が固定なら、本番で迷わない。
もう一段だけ:“期中に”売ったときの合わせ技
問3・問4は「期首に売却」だった。これが期中の売却になると、月割りと売却の合わせ技になる。本試験で差がつくのはここだ。
例:問3と同じ備品(取得原価600,000円・期首の累計額240,000円・年間の減価償却費120,000円)を、7月31日に300,000円で売却、代金は現金。決算日は3月31日とする。
売る前に、ひと仕事ある。期首から売却日までの4か月分、今期も備品を使っていたのだから、そのぶんの減価償却費を先に計上する。120,000円 × 4/12 = 40,000円。これで売却時点の帳簿価額は 600,000 − 240,000 − 40,000 = 320,000円になり、300,000円で売ったので損は20,000円。
(借)減価償却費 40,000 現金 300,000 減価償却累計額 240,000 固定資産売却損 20,000 /(貸)備品 600,000
見た目はゴツいが、やったことは「問2の月割り」+「問3の売却3手順」を順番に実行しただけ。借方合計も600,000円でピタリと合う。期中売却=まず当期分を月割りで償却、それから売る。この順番だけ覚えて帰ってほしい。
ちなみに:「直接法」という書き方もある
ここまで使ってきた間接法に対して、累計額のメモを使わず、備品そのものを直接減らす「直接法」という記帳方法もある(借方は同じ減価償却費で、貸方が「備品」になる)。
ただ、3級の問題は間接法が圧倒的に主流だ。問題文に「記帳は間接法による」「直接法による」と必ず指定があるので、暗記で身構える必要はない。「指定を読む→貸方を累計額にするか備品にするか決める」。それだけ覚えておけば足りる。
4問の景色を、1枚にまとめる
通してみると、減価償却の世界はこれだけだ。
- 買ったとき:資産(備品)として計上。まだ費用ではない
- 決算ごと:使った分を費用化。(取得原価−残存価額)÷耐用年数で年額、期中取得なら月割り(問1・問2)
- 間接法:備品は減らさず「減価償却累計額」という値引きメモを積む。帳簿価額=取得原価−累計額
- 売ったとき:本体とメモをセットで消し、差額を売却損 or 売却益に(問3・問4)
“分割払いの費用”という芯さえ持っていれば、月割りも売却も「そりゃそうだよね」の連続になる。公式を呪文として覚えていたころの私に比べて、間違いは目に見えて減った。
仕上げはいつものやつだ。この4問、ページを閉じて、何も見ずにもう一度仕訳を切れるか。——「閉じて再現」できたら、減価償却はもうあなたの得点源だ。
減価償却は、高い買い物の“分割払い”。使った期間のぶんだけ、費用にしていく。